
近くの児童公園の5,6メートルくらいの高さの樹木に、
夕方になると、
もどってきた雀たちが、びっしり鈴なりになります。
2月のいま樹木には、
こげ茶色に枯れちぢれた葉が、
何枚か細い枝にしがみついているだけで、裸です。
その裸の枝を埋めるように雀たちが並んでいます。
葉がないので隠れるところもなく、
見上げるわたしの目に、
夕暮れの空を背景に、
雀らのちいさな姿は一羽いちわ黒いシルエットに見えます。
いっせいに、
自分のその日のできごとをしゃべりたてているような騒がしさで、
夏の蝉しぐれを思いだします。
雀には毎日帰る巣があると…
おとなになってン十年のキャリアのわたしですが、
数年前まで、
雀には、
童謡にあるように、
毎日帰るお宿、というか、
個人住宅(ねぐら)の「巣」があるのだとおもっていました。
でもあるとき、
ラジオで鳥類学者が、
「雀が巣を作るのは、子育ての時だけ。
それ以外は、樹木の枝に群れて眠る」
と話しているのを聴き、おどろきました。
(ウソッ。雨の日や風の強い日はどうするのッ!?)
わたしの疑問に答えるように、
学者はつづけました。
「かれらは、身を寄せ合って体温を保ったり、
風や雨をしのぐ」のだと。
群れて寝るのには、ほかにもメリットがあって、
ことばはもたない雀だけど、
(おや、こいつ、お腹がいっぱいの顔してるじゃん)
と見て取ることはできるので、
翌朝、後についていき、自分も餌にありつく、
ということもあるのだそうです。
学者の話を聴いて、
ときどき見かけ、それまで(いったい、なんなんだろう?!)
とふしぎに思っていた、
騒がしく雀が鈴なりの樹の謎が、解けました。
エメラルドグリーンの衝立でカプセルホテルもどきに
寒い寒いと思ってた2月も、もうじき終わりです。
3月になれば春。
木々が芽吹き、
小さな点だった葉はグングン大きくなりはじめ、
やがて、
一枚いちまい、エメラルドグリーンの明るい衝立になって、
雀らの姿を隠します。
丸見えだったおとなりとの間に境もできて、
ベンチにみたいだった枝は、
カプセルホテルもどきになります。
季節が変わって葉を広げたり落としたりするけれど、
樹が、黙って雀らの宿になり、立ち続けるのは同じです。
●短歌
[細き枝を無数に伸ばし
かしましきすずめらささえ樹はもだしいる]
[その枝の先まで秘めし
萌えいずる若みどりゆえ床しはだか樹〕
ひとま・東京
・スポンサー